地方企業にとって、優秀な人材の確保は喫緊の課題となっています。特に、都市部への人口流出や少子高齢化が進む中で、従来の採用手法では思うように人材が集まらないという声も多く聞かれます。しかし、こうした環境の変化に適応し、新たな採用戦略を構築することで、地方企業でも優秀な人材の確保は十分可能です。
本記事では、地方企業の採用における現状と課題を整理し、具体的な解決策や成功事例を紹介します。
目次
地方企業の採用課題
地方企業が直面している採用の課題は多岐にわたります。特に、都市部との人材競争の激化や地域の人口減少が進む中で、従来の採用戦略だけでは求職者を十分に惹きつけることが難しくなっています。これらの課題を理解し、適切な対応策を講じることが、今後の採用成功の鍵となります。
労働力人口の減少と都市部への人口集中
日本全体で少子高齢化が進行しており、特に地方では若年層の都市部への流出が顕著です。総務省のデータによれば、2024年の東京圏（東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県）への転入超過数は13万5843人に達し、前年に比べ9328人増加しており、この傾向は年々加速しています。その結果、地方では企業規模を問わず、新規採用が難しくなっています。
また、単に求職者の数が減少しているだけでなく、都市部に移動する若年層の多くが、ITやグローバルなビジネス環境を志向する傾向にあります。そのため、地方企業が従来と同じ手法で採用活動を行っても、思うような成果を得ることは難しいのが実情です。
有効求人倍率の上昇と採用競争の激化
労働力人口の減少に伴い、有効求人倍率も上昇傾向にあります。厚生労働省のデータによると、令和5年7月の有効求人倍率は1.29倍となっており、求職者よりも求人の方が多い状況が続いています。特に地方では、大手企業や公的機関と中小企業との間で人材の奪い合いが発生し、中小企業にとってはさらに厳しい状況となっています。
このような環境の中で、地方企業が優秀な人材を確保するためには、従来の求人広告やハローワーク頼みの採用手法に加え、企業の魅力をより具体的に伝え、求職者のニーズに合った働き方を提示することが不可欠となります。
地方で働きたいと思う求職者の特徴
地方で働くことを希望する求職者には、さまざまな背景や動機があります。都市部での生活に疲れ、よりゆとりのある暮らしを求める人や、地元に戻り家族と過ごしたいと考える人も少なくありません。また、地方の特定の産業や職種に魅力を感じ、新たなキャリアを築こうとする人もいます。
このような求職者に対しては、単に求人情報を提供するだけでなく、彼らが地方で働くことのメリットを十分に理解できるような情報を発信することが重要です。たとえば、生活費の削減や、自然に囲まれた生活の魅力、地域社会との深いつながりなど、都市部では得られない価値を強調することが有効です。
地方採用を成功させるためのポイント
採用を成功させるためには、企業の強みを明確にし、それを求職者に適切に伝えることが重要です。また、採用活動においては、単に求人を出すだけでなく、ターゲットとなる求職者の特性を理解し、彼らのニーズに応じたアプローチを取ることが求められます。
ターゲットの明確化とペルソナ設計
採用活動を成功させるためには、まず「誰に来てもらいたいのか」を明確にすることが重要です。求める人材像（ペルソナ）を具体的に設計し、それに基づいた採用活動を展開することで、よりマッチ度の高い候補者を引き寄せることができます。
例えば、地方企業が若手人材を確保したい場合、「なぜ都市部から地方に移住したいと考えるのか」「どのような職場環境を求めているのか」などを調査し、それに合った情報発信を行うことが重要です。例えば、テレワークの導入や、地方ならではのライフスタイルの魅力を伝えることで、移住を検討する求職者の興味を引くことができます。
地域の魅力と企業の強みの発信
地方企業が採用競争を勝ち抜くためには、「地域の魅力」や「企業の独自性」を発信し、都市部にはない価値を求職者に提供することが必要です。
例えば、都市部に比べて生活コストが低いため、同じ収入でもより豊かな暮らしを実現しやすい点は大きな魅力です。さらに、通勤のストレスが少ないこともメリットであり、満員電車に揺られることなく快適に職場へ通える環境が整っています。
地方ならではの自然環境が充実しており、登山や海辺でのアクティビティなどが身近に楽しめることも、地方で働く魅力の一つです。さらに、地域密着型の働き方が可能であるため、顧客や取引先との距離が近く、仕事の成果をより身近に実感できる環境が整っています。
また、企業独自の強みを発信することも重要です。例えば、社員の成長を支援する研修制度が充実している企業では、入社後のスキルアップを図りやすい環境が整っています。
社内の風通しが良く、意見を発信しやすい職場文化を醸成している企業では、社員が自らのアイデアを形にしやすく、やりがいを感じやすい職場環境が整っていることをアピールできます。こうした情報を積極的に発信することで、他社との差別化を図り、求職者の関心を引きつけることが可能となります。
地方採用の成功事例
地方企業の採用成功には、工夫を凝らした戦略と実行力が欠かせません。ここでは、実際に地方で採用を成功させた企業の具体的な事例を紹介します。各企業がどのような取り組みを行い、人材確保に成功したのかを知ることで、自社の採用活動に活かすヒントを得ることができるでしょう。
事例1：長野県の観光業A社
長野県の観光業A社は、地元の魅力を前面に押し出し、地方移住を希望する若手人材の採用に成功しました。同社は、地域ならではのアクティビティや四季折々の自然を生かしたワークライフバランスをアピールし、SNSやYouTubeを活用して情報発信を行いました。結果として、都市部からのUIターン希望者が増加し、採用成功率が大幅に向上しました。
事例2：広島県の製造業B社
広島県の製造業B社は、地元の高校や専門学校との連携を強化し、若年層の人材確保に取り組みました。定期的に工場見学会や職業体験プログラムを実施し、学生に実際の職場環境を知ってもらう機会を提供。さらに、奨学金返済支援制度を導入し、経済的な負担を軽減する施策も実施しました。その結果、地元の若手人材の定着率が向上し、採用活動の成果が大きく向上しました。
事例3：北海道のIT企業C社
北海道のIT企業C社は、フルリモートワーク制度を導入し、全国から優秀な人材を採用する戦略を採用しました。地方での生活のメリットを活かしながら、都心部の求職者にもアピールすることで、多様なスキルを持つエンジニアを確保。
また、北海道ならではの広大な自然環境を楽しめることも訴求ポイントとし、求職者のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を提案しました。この施策により、都市部に拠点を置かなくても、優秀な人材の確保が可能となりました。
まとめ
地方企業の採用活動は、都市部と比べて困難な側面が多いものの、適切な戦略と工夫を凝らすことで十分に成功の可能性があります。ターゲットの明確化、地域の魅力発信、UIターン希望者へのアプローチなど、企業ごとに最適な手法を組み合わせることが重要です。
さらに、採用後の定着支援も不可欠であり、入社後の研修制度の充実やキャリアパスの明示、社内のコミュニケーションの活性化が求められます。これにより、採用した人材が長く活躍し、企業の成長につながる好循環を生み出すことができます。
今後の人材確保のために、本記事の内容を参考に、自社の採用戦略を見直してみてはいかがでしょうか。
